「あ、これヤバいのでは」と気付いたのは、髪を抜き始めて2ヵ月ほど経った頃のことだったと思います。
その頃はもう、前髪を上げると髪の無い白い地肌が大幅に見えてしまうくらいになっていました。
当時の髪型はポニーテールで、前髪は普通に作っていたのですが、もう「前髪が作れているレベル」ではありませんでした。
濡れてしまえば髪の無い部分が透けて見えてしまって、かなり悲惨でした。
おでこの面積が一気に広がったわけですから、当然顔の見た目も変わってきます。
「このままでは本当にまずい。これからは絶対抜かないようにしよう」
そう心に決めて、数日の間は必死に髪の毛を抜きたい衝動を抑えました。
ですが、この2ヵ月で定着してしまった癖から脱却するのはそう容易なことではありません。家で宿題をやっているときはもちろん、学校のテスト中なんかでも、息詰まるとすぐに、髪に手が伸びてしまいます。
やめないと、やめなくちゃいけない。そう思えば思うほど、無性に髪を抜きたくなる。もう完全な悪循環でした。
この癖に拍車をかけたのは、恐らく中学校の人間関係です。
小学生時代はわりと上手くやっていた方だと思うのですが、中学に上がって色々なことが変わり、私はそれに適応することが出来ませんでした。
私の通っていた中学校は、主に2つの小学校の卒業生で構成されています。
小さな小学校と、大きな小学校。
私は小さな小学校の卒業生だったので、入学式の日はとんでもない居心地の悪さを感じました。
私の周りには知り合いなんていないのに、隣の席ではもう女子のグループが出来上がっている。大きな小学校からそのまま上がってきた人達の輪です。
中高一貫の学校に、中途入学した気分でした。
中1の頃は、まだ良かったんです。
大きな小学校からやってきた、圧倒的「陽キャ」の子たちと「合わないな」と感じることはあっても、自分と似たような子たちとグループを作ることが出来たので。
ミニテニスの経験があった私は、ソフトテニス部に入りました。
顧問の先生も優しく、私もそれなりに上手く打てる方ではあって。
なんとかやっていけるかもしれないと、このときは思っていました。
おかしくなったのは、中2に上がってからです。
中1の頃に仲良くしていた子から、「Rちゃんっていう子はすごく性格悪いから、近づかない方がいいよ」と言われていたのですが、私はそのRちゃんと同じクラスでした。
中学2年と3年で、クラスは変わりません。
ですから中2のクラス替えの日が運命の分かれ道で、この日に友達を作れるかどうかが、残りの中学生活を楽しいものにできるかどうかの分け目でした。
キョロキョロ見渡しても、仲良くなれそうな子はいなくて。
右往左往している私に声をかけてくれたのが、そのRちゃんだったんです。
「友達できるか不安だったから、安心した~」
そう言って、Rちゃんは笑っていました。
「なんだ、いい子じゃないか」
そう思ってしまった自分を、殴りたい気持ちでいっぱいです。
ただ、このときから予兆はありました。
中2のクラスにはAちゃんという少し変わった女の子がいたのですが、彼女だけはグループの輪に入れていませんでした。
そのAちゃんを見て、Rちゃんは言ったんです。
「あの子、1人みたいだね。あ~よかった。私には友達できて。これからずっと二人でいようね」
ちょっと、びっくりしました。
性格が悪い、と言っていたあの子の気持ちが、分かったような気がしました。
このときにRちゃんと距離を置いて、他のグループに入っていれば、私の「癖」もここまで酷くはならなかったかもしれません。
私の中学時代を一言で表すと、「暗黒」です。
今思えばあの「癖」は、中学校で蓄積されたストレスが現れたもののような気がします。
髪を抜く話と、中学時代の話。読んでいてあまり気持ちのいいものではないかもしれませんが、あの時代がなければ今の私はないと思っています。
しばらくの間、お付き合いいただければ幸いです。